ノート道具を作る

メール誤送信は、統計のどこにいるのか

メール誤送信はどれくらい起きているのか。個人情報保護委員会の年次報告、東京商工リサーチの調査、IPAの10大脅威を読み比べたら、単独の数字はどこにもなく、資料ごとに違う景色が見えた。三つの窓の違いと、その理由の記録。

道具を作る 仕事で試して分かったこと

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夜の机に積み上がった大量の紙の束。一番高い山の上に載った一通の封筒だけが、画面外からの青い光にふちどられている

送信の前に確認するための道具をいくつか作っています。その前提を、一度数字で確かめておきたいと思っていました。メールの誤送信は、実際のところどれくらい起きているのか。2026年8月に、公開されている資料を三つ読みました。

探していたのは、一つの数字だった

調べる前は、「漏えい原因のうちメール誤送信が何%」という数字がどこかにあると思っていました。それを見つけて、根拠として引けばいい、というくらいの想定です。

結論から書くと、その数字はどこにもありませんでした。代わりに、三つの資料がそれぞれ違う景色を見せていることが分かりました。

義務報告の窓では、攻撃より手違いが多い

個人情報保護委員会は、個人情報保護法にもとづく漏えい等報告の処理状況を毎年公表しています。2026年7月7日に公表された令和7年度の年次報告では、民間事業者からの報告として処理された件数は17,139件。うち委員会が直接受け付けた13,345件について、原因の内訳が公表されています。

内訳は、漏えいがどこで起きたかで分かれています。報告した事業者自身のところで起きたものが82.7%を占め、その中で最も多いのが誤交付の45.5%、次が誤送付の21.6%。この二つだけで全体のおよそ3分の2になります。不正アクセスは、委託先で起きたものや経路の分からないものまで合わせても、1割に届きません。報告書の本文には、病院や薬局における書類の誤交付、クレジットカードの誤送付といった例が挙がっています。漏えいした情報の形態は「紙媒体のみ」が76.9%でした。

この窓から見える日本の個人情報漏えいは、サイバー攻撃の話がほとんどではありません。紙と、手違いの話です。

ただし、「誤送付」のうちメールが何件なのかは公表されていません。郵便の誤送付とメールの誤送信は、同じ区分の中にいます。

上場企業の窓では、主役が不正アクセスに変わる

東京商工リサーチが2026年1月30日に発表した調査(東京商工リサーチ TSRデータインサイト「2025年 上場企業の個人情報漏えい・紛失事故」)では、2025年に上場企業とその子会社が公表した事故は180件。最多はウイルス感染・不正アクセスで64.4%。誤表示・誤送信は37件、20.5%で2番目です。メール送信時のCCとBCCの取り違えなどが、ここに入ります。

同じ国の、ほぼ同じ期間の話なのに、義務報告の窓とは景色が逆になります。

専門家の窓からは、「うっかり」が消えていく

IPAの「情報セキュリティ10大脅威」は、セキュリティの実務者や研究者の審議・投票で決まります。2025年版の組織編には「不注意による情報漏えい等の被害」が10位に入っていました。2026年版では、トップ10から外れています。上位に並ぶのは、ランサム攻撃、サプライチェーン攻撃、AIの利用をめぐるリスクです。

どの数字を引くかで迷った

道具を作っている立場からは、一番大きく見える数字だけを引きたくなります。「報告された漏えいの3分の2は手違い」。これは事実です。ただ、上場企業の公表事故だけを見れば主役は不正アクセスで、それも事実です。片方だけを見せるのは、調べた意味がない気がしました。

違いは、数え方から来ています。義務報告には、要配慮個人情報なら1件の漏えいでも報告義務があるため、病院や薬局の紙の誤交付が大量に写ります。上場企業の自主公表は、公表に至るような大きな事故に偏るため、ランサムウェアが主役になります。専門家の投票は、新しく大きくなっている脅威に向かいます。どれかが間違っているのではなく、窓が違うだけでした。

なのでこの記事では、三つを並べることにしました。

分かったこと

メール誤送信は、この三つの統計の中で、単独の項目を持っていませんでした。義務報告では郵便と同じ区分に、上場企業の調査ではWebサイトの誤表示と同じ区分に入っていて、専門家の関心からは外れていく。一件一件が小さく、ニュースにもなりにくいからだと思います。

それでも、義務報告の窓から見るかぎり、日本で一番多い漏えいの形は、攻撃ではなく手違いです。そして手違いは、前の記事にも書いたとおり、注意力の問題というより、送る直前に確認できる場所があるかどうかの問題だと考えています。

数字を調べて分かったのは、誤送信の正確な件数ではありませんでした。これだけ大きな区分の中にいながら、誰も単独では数えていない、ということでした。

タグ: 誤送信・統計・個人情報・送信前の確認

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