特殊詐欺に占める高齢者の割合は51.3% — 低下の背景に若年層のニセ警察詐欺
特殊詐欺の認知件数に占める65歳以上の割合は51.3%で、前年から14.0ポイント下がりました。ただし65歳以上の認知件数そのものは14,273件で535件増えています。割合の低下は、高齢者が安全になったことを示す数字ではありません。
この記事の見出し
離れて暮らす家族のことが気になったとき、まず何を見ればいいのか分かりませんでした。2026年8月に、公開されている資料を三つ読みました。警察庁の特殊詐欺統計、国民生活センターの消費生活相談、総務省の通信利用動向調査です。
読む前に想定していたのは、「年齢が上がるほど危険が増える」という形の数字が出てくることでした。三つとも、そうはなっていませんでした。ただし、それは「高齢者は危なくない」という意味ではありません。この三つの資料は、年代別の人口を分母にした被害率を持っていないので、年代ごとの危険度そのものを比べることができないからです。
三つの資料は、それぞれ別の質問にしか答えられない
数字を並べる前に、どの資料が何に答えられるのかを先に確認します。三つとも「高齢者とネット上の危険」に関わる資料ですが、数えているものも分母も違うため、そのまま並べて比較することはできません。
| 項目 | 警察庁 | 国民生活センター | 総務省 |
|---|---|---|---|
| 数えているもの | 特殊詐欺の認知件数と被害額 | 消費生活相談の件数 | 個人のインターネット利用 |
| 分母 | 法人被害を除く認知件数 | 消費生活相談の全件数 | インターネットを利用したと答えた人 |
| 対象期間 | 2025年1〜12月(確定値) | 2024年度 | 2025年8月末時点 |
| 公表日 | 2026年5月22日 | 2025年9月3日 | 2026年5月29日 |
| この資料だけでは言えないこと | 年代別の人口を分母にした被害率 | 高齢者の何%がトラブルに遭ったか | その年齢層の全員に対する比率 |
三つとも「それぞれの最新」ですが、対象期間はそろっていません。65歳以上の内訳を出す統計は年1回で、公表時期も資料ごとに違うためです。同じ年の話として並べることはできません。
51.3%は構成比で、高齢者の被害が減ったという意味ではない
警察庁の令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)(PDF・外部サイト/2026年5月22日公表)は、2025年1月から12月までの確定値です。
割合が下がった一方で、件数は増えています。矛盾ではありません。51.3%は「法人被害を除く認知件数のうち65歳以上が占める割合」であって、65歳以上の被害が増えたか減ったかを表す数字ではないからです。
動いたのは主に分母のほうでした。2025年の特殊詐欺の認知件数は27,832件で前年より6,789件(+32.3%)増え、被害額は1,423.1億円で前年のほぼ2倍(+98.0%)になっています。全体が大きく増えたので、件数が増えた65歳以上の構成比は下がりました。
割合が下がった理由も資料に書かれています。2025年分から統計を取り始めた「ニセ警察詐欺」(警察官等をかたり、捜査を名目に現金等をだまし取る手口)で、20代・30代の被害が広がりました。オレオレ詐欺の認知件数に占める20代と30代の割合は27.9%(前年比+14.4ポイント)、架空料金請求詐欺では30.0%(同+6.8ポイント)です。資料はこれを「総認知件数に占める高齢者の割合が減少している主たる要因」と書いています。
ニセ警察詐欺だけで認知件数11,014件・被害額1,005.0億円を占めます。
手口によって、65歳以上の割合は20.9%から98.9%まで開く
| 手口 | 65歳以上の割合 |
|---|---|
| 特殊詐欺全体 | 51.3% |
| オレオレ詐欺 | 45.4% |
| 預貯金詐欺 | 98.8% |
| 注目架空料金請求詐欺 | 33.2% |
| 還付金詐欺 | 81.1% |
| 注目キャッシュカード詐欺盗 | 98.9% |
| その他 | 20.9% |
同じ「特殊詐欺」という言葉の中で、20.9%から98.9%まで開きます。預貯金詐欺とキャッシュカード詐欺盗は、法人被害を除く認知件数の約99%が65歳以上です。一方で架空料金請求詐欺は33.2%、つまり3件に1件です。
件数の山と金額の山も、別のところにあります。ニセ警察詐欺の認知件数は30代が2,239件で最も多く、次いで20代が1,718件。一方で被害額は70代が274.6億円、60代が256.3億円で最も大きい。若い年代が件数に、高齢の年代が金額に表れています。
相談件数は過去最高。ただし「高齢者の38.6%がトラブルに遭った」ではない
国民生活センターの2024年度 65歳以上の消費生活相談の状況(PDF・外部サイト/2025年9月3日公表)では、契約当事者が65歳以上の相談は304,130件でした。相談全体の38.6%を占め、2020年度以降で最高です。
| 年度 | 65歳以上の相談件数 | 相談全体に占める割合 |
|---|---|---|
| 2020年度 | 271,668件 | 33.0% |
| 2021年度 | 251,850件 | 34.1% |
| 2022年度 | 268,876件 | 34.2% |
| 2023年度 | 277,604件 | 35.8% |
| 注目2024年度 | 304,130件 | 38.6% |
金額は想定と逆でした。平均契約購入金額は65歳未満が約90万円、65歳以上が約71万円で、高齢者のほうが低い。平均既支払金額は65歳未満が約45万円、65歳以上が約46万円でほぼ同じです。65歳以上では、契約購入金額5万円未満が6割以上を占めます。
70代でもネット利用は多い。ただし主な用途は電子メール
総務省の令和7年通信利用動向調査(2025年調査)(PDF・外部サイト/2026年5月29日公表・調査時点は2025年8月末)によると、個人のインターネット利用率は60〜69歳で男性92.0%・女性90.4%、70〜79歳で男性77.0%・女性67.5%。80歳以上になると男性45.3%・女性32.3%まで下がります。
インターネット利用者全体では「商品・サービスの購入・取引」が48.2%(複数回答)。ただし年齢階層別の上位5項目を見ると、50歳代以上のどの階層でも1位は「電子メールの送受信」で、60歳代以上では買い物は上位5項目に入っていません。
想定と違ったのはここでした。高齢になるとネットから離れる、のではありません。使ってはいるけれど、使う中身の重心が違う。
次に公表される数字は、今年の数字とそのまま比べられない
この記事の数字を引き写して使う場合、少なくとも三つ、そのままつながらない点があります。
- 手口の区分が変わる。 警察庁の統計では、2026年分として次回公表される統計から、ニセ警察詐欺が独立した手口になり、SNS型投資・ロマンス詐欺も特殊詐欺の一手口に編入されます。手口別の割合は前年と単純に比較できなくなります。
- 同じ年度でも集計基準日で件数が変わる。 PIO-NET は後から登録が積み上がるため、2023年度の65歳以上の相談件数は、本文で使った資料(2025年7月31日登録分まで)で277,604件、別の資料(2025年5月末日登録分まで)で276,988件です。基準日ごと引く必要があります。
- 65歳以上の内訳は2024年度が最新。 2025年度の消費生活相談(100.6万件)は既に公表されていますが、年代の区切りが70歳以上で、65歳以上の内訳を持ちません。
統計から言えること、言えないこと
ここまでが資料に書かれていることです。以下は、それを読んだうえでの私の判断で、資料に書かれていることではありません。
確認するときは、割合ではなく件数と金額を見るほうが実態に近いと考えています。構成比は、他の年代で何が起きたかによって、自分の年代に何も起きていなくても動きます。今回がその例でした。
「高齢だから全部を制限する」という対処は、この数字とは形が合いません。預貯金詐欺やキャッシュカード詐欺盗のように65歳以上が約99%を占める手口がある一方で、架空料金請求詐欺のように33.2%の手口もあるからです。年齢で一律に線を引くより、狙われやすい手口の側から見るほうが、この資料とは整合します。
ただし、この三つの資料からは「どの年代がより危険か」を出すことはできません。そのためには年代別の人口を分母にした被害率が要りますが、いずれの資料にもその数字はありません。年代別の危険度を比べたい場合は、別の統計を探す必要があります。
参照資料
- 警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」 — 発行: 警察庁 組織犯罪対策第二課・生活安全企画課/対象期間: 2025年1〜12月(確定値)/公表日: 2026年5月22日/PDF・外部サイト(引用箇所は p.5「ウ 被害者の年齢層等」)
- 国民生活センター「2024年度 65歳以上の消費生活相談の状況」 — 発行: 独立行政法人国民生活センター/対象期間: 2024年度(2025年7月31日までのPIO-NET登録分)/公表日: 2025年9月3日/PDF・外部サイト
- 総務省「令和7年通信利用動向調査 報告書(世帯編)」 — 発行: 総務省/調査時点: 2025年8月末/公表日: 2026年5月29日/PDF・外部サイト
いずれも2026年8月28日に原典(PDF)を取得し、本文の数値を1件ずつ突き合わせています。次の確認予定は2026年9月30日で、国民生活センターの65歳以上版(例年9月上旬公表)の新年度版が出たら表3を更新します。